負の頻度依存選択を実証する

Takahashi, Y. & Kawata,, M. (2013) A comprehensive test for negative frequency-dependent selection. Population Ecology 55(3): 499-509.


 種内の遺伝的多様性は自然界において普遍的にみられる現象であり,最たる例が種内の不連続な遺伝的な変異である「遺伝的多型」です.遺伝的多型はその単純さゆえに古くから理論的にも実証的にも研究され,負の頻度依存選択を始め様々な維持機構が提唱されています.しかし,多型の維持機構についての決定的な実証例は驚くほど少ないというのが現状です.なぜなら,これまでの多くの研究成果が状況証拠に過ぎず,それらと「多型の恒久的な維持」の因果に必然性がないためです.たとえば、捕食者が多数派の餌タイプを選好することがあったとしても,実際に多数派が狙われやすいとは限らないですし,多数派が狙われやすいからといって少数派の適応度が多数派よりも高くなるとは限りません.さらに言えば,少数派の適応度が多数派よりも高いからといって,それが多型を維持するのに充分な選択圧になっているとは言い切れません.また,型比の周期振動は様々な原因で生じ得るので,これもまた単独では多型の維持機構を立証する決定打とはなりません.したがって,多型の維持機構の立証には,選択の引き金となる生物間相互作用やその行動的基盤,さらに,その相互作用の結果として生じる適応度の頻度依存性や遺伝子頻度の時間的振動といった証拠と「多型の恒久的維持」との因果を立証することが必要不可欠であるといえます.

 

 本論文では,まず,負の頻度依存選択に焦点を当て,選択の様々な段階についての状況証拠を網羅的に収集することでそれらの因果性を裏付けるという研究戦略の重要性を述べます.次いで,雌に遺伝的な色彩二型の出現するアオモンイトトンボにおける負の頻度依存選択の実証例を紹介します.ここでは,行動学や生態学,集団遺伝学,数理生物学などからのアプローチにより多型の維持の原因や過程,帰結を包括的に明らかにしていきます.多角的検証により現象の因果を保証していくというこのようなアプローチは,生態学や進化学の扱う様々な現象の立証に応用可能な研究戦略となるかもしれません.

 

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