土壌微生物のβ多様性と群集集合:土壌深度による比較

Kadowaki, K., Sato, H., Yamamoto, S., Tanabe, A., Hidaka, A. & Toju, H. (2014) Detection of the horizontal spatial structure of soil fungal communities in a natural forest. Population Ecology, 56(2): 301-310

 

土壌微生物は,場所によって全く異なる群集構造をもっていること(すなわち,β多様性が高いこと)が知られています.それらの微生物は, 落葉の分解者として,また植物の共生相手として,地上の植物群集を決定する重要な要因のひとつです.土壌微生物のβ多様性を明らかにすることは,地上の植物群集の動態をより正確に理解するうえで必要であると考えられます.一般に,土壌は複数の層から成り立ち,これらの層は微生物にとって異なる環境であるため,土壌微生物のβ多様性のパターンは土壌層の深さによって異なっている可能性が考えられます.

 

私たちは,京都東山区清水山のシイ林において,トランセクト上に等間隔に設置された24地点において,O層とA層から土壌を採集しました.合計48サンプルの土壌真菌類のITS領域の塩基配列を次世代シーケンサーGSJrでを解析することにより,各層間でβ多様性のパターンを比較しました.シーケンサー解析の結果,67,129リードの塩基配列が得られました.塩基配列相同性にもとづくクラスタリングによって,597個のOTU(操作的分類群)が定義されました.さらに,最近,開発された自動分子同定ソフトウェアClaidentによって,これらのOUTの分類群を同定したところ,68%OTUが真菌であるとの結果が得られました.次に,O層とA層の間でサンプリング地点間の距離をGPSで記録し,サンプリング地点間の群集組成の違い(β多様性)と距離の間の関係をマンテル検定の解析を試みました.α多様性の変化に依存するJaccard指数と,α多様性の変化を補正したRaup-Crick指数のふたつのβ多様性指数を併用することで,サンプル間の種数の変化と種組成の変化の相対的な重要度を評価しました.

 

O層の土壌真菌群集では,50m内の範囲で距離が遠くなるにつれて,種数も種組成も有意に異なる傾向が見られました.一方で,より深いA層の土壌真菌群集では,同様の傾向はみられず,地点間の距離に依存した空間的な自己相関は検出されませんでした.この結果より推察できることは,以下の二つです.一つ目は,A層ではO層と比較して,その非生物的な環境がより小さい空間スケールで異質である可能性が考えられます.二つ目は,O層ではA層と比べて,活発な土壌動物によってより頻繁に菌糸や胞子が運ばれるため,結果として,菌類の分散が活発となり空間自己相関が検出された可能性も考えられます.よって,土壌深度に依存したβ多様性のパターンは,環境フィルター(ニッチ過程)もしくは,分散の制約(中立過程)のいずれかによって説明できることがわかりました.

 

本論文では,これまでブラックボックスとされてきた土壌真菌群集の多様性を,これまでにない信頼性と分類学的精度で解明できることを実証しました.今回採用された研究手法は,今後,メタゲノム解析に基づく群集多様性評価をさまざまな環境において行ううえでのスタンダードとなりうると考えられます.

 

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